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Hajime Mizoguchi

溝口 肇チェリスト/作曲家

音楽家である溝口肇氏は、愛器のチェロはもちろん、オーディオや車、カメラなどを独自の感性でチョイスし、豊かなライフスタイルを送っている。どれも長く愛用しているのがポイントだ。ものを選ぶ基準は見た目と言い切る。さてG:LINEは彼の感性にどう響くのか?聞いてみた。

相棒でもあるチェロの選び方を
教えてください。

音楽は音なので、耳から聞こえてくるものを一番大事にします。しかし、ものは、最初はやはり見た印象だと思います。チェロでも何でもそうですが、機能美です。

チェロも機能美というものが必ずあります。チェロが100台並んでいれば、表情は全て違います。その100台の中から、自分に訴えてくるチェロが必ずあります。それが機能美とも言えるし、自分に訴えかけてくるデザインや、ものが持っている力です。ですから惹かれたものを、自分の手元に置くことが多いです。

楽器以外で、同じように力を
感じて
手にしているものは
ありますか。

例えば仕事で使うレコーディング機材。メーカーごとに音の個性があります。メーカーの中でも音に優劣があるので色々調べます。ただ、やはり一番優先するものは音質ですが、見た目で選ぶことも多いです。

オーディオもほとんど見た目で決めています。特に、私はミッドセンチュリー時代のデザインが大好きなので、スピーカーも本当に見た目で買ってしまいました。音は二の次というのはおかしな話ですが、デザインがとても素敵で、これをどのようにして自分好みの音を鳴らそうかと考えて楽しんでいます。

見た目が素敵だと、いつも一緒にいたい、それを見ていたいと思います。絵も同じで、素敵な絵はいつまで見ても飽きません。見るたびにいろいろな刺激を受けます。オーディオも本当は音ですが、見たり触ったり、そこからまた刺激を受けることが毎日のようにあるので、それを一番大事にしています。

素敵な価値観です。
しかし、
見た目が格好良くとも
性能が
イマイチだったりしませんか?

それが、見た目が良いと意外と音も良いのです。性能が良い。ものを作るとき、どのように素晴らしい性能にするか、が最初にあって、見た目は最後のものだと思います。最後にデザインを考える際に、例えば録音機材であれば、その音を生かすためのデザインを考えるでしょう。性能から見た目が生まれるのです。

G:LINEは、火をつけて料理をする単純な器具です。しかしその性能はハイレベル。それをどのように見た目で表そうか考えると、やはりデザインにも非常にこだわることになる。

多分、見た目で選ぶことが結果、中身も選んでいるのではないかと、私は今までさまざまなものを選んできてそう考えています。

見た目と中身は
直結しているんですね。

はい。中身も良く、性能も良いものとなると、やはり高価です。しかし、それだけお金をかけてつくっているので、高価なのは当然です。われわれも、例えばレコーディングを行うとき、方法はピンキリです。宅録で一切お金をかけないこともできます。大きなスタジオを使い、お金をかけることもできます。それはやはり音に出ます。

コストパフォーマンスと言いますが、本当にコストパフォーマンスで選んだものを大事にできるか、見た目が嫌だと思うものを大事にするのは難しいのではありませんか。

コンロは実用性を優先する人が多いですが、
溝口さんの価値基準では単純な料理以上の
価値をもたらしてくれそうです。

以前、家を買ったとき台所を自分でデザインしたんです。大きなコンロを買って。とても気に入って、朝食をコンロの上で食べるようになった。コンロ一つでそこまで楽しめたことに、非常に驚きました。

たかがコンロだと思っていましたが、料理が楽しくなります。料理は自分のために作るのですが、面倒な部分でもあります。特に忙しいとき、夜まで仕事をして、食事を作る元気がないときでも、このコンロを使っていると楽しい、見ていると少し元気が出ると感じます。そのようなものを自分の道具として持っていると、何か違う気持ちが生まれ、人は豊かになると思うのです。

作曲するときも視覚から
影響されることはありますか?

そうですね。しかし、美しい自然を見た感動から音楽は生まれません。その自然の美しさ以上のものはないのです。ただそれを自分の引き出しから探って、近い美しさを作ろうと努力します。

結局、人が作るものは、その人が歩んだ人生がものとして出てくるのです。私の場合、それが音楽。

美しいものは、作った人も美しい心を持っているのかと想像します。間違っているかもしれませんが、だまされるのもいいと思います。

溝口さんが良いものを
周りに置いている
意味が
分かった気がします。

私は欲しいものや必要なものはよく調べて購入します。そして同じ性能であれば見た目のいいものを選びます。そちらのほうが高価になりますが、今までそうして買ってきました。それはずっと私の手元に残っています。そのように選んだものは、本当に後悔していません。

G:LINEのようなキッチン用品は、10年以上使用するものです。もしかすると、家が壊れるまでずっと使うかもしれません。そう考えると、自分の人生に寄り添うものですよね。

溝口 肇

1960年東京都生まれ。チェリスト、作曲家。東京藝術大学音楽部器楽科卒業。カラヤンに憧れて3歳よりピアノを始め、11才からチェロに転向。クラシックのみならず、ロック、ポップス、ジャズなどにも傾倒。テレビ朝日の長寿番組『世界の車窓から』のテーマ曲を始め、数々のテレビ、映画、CM、アニメなどの音楽を手掛ける。