暮らしにリラックスを。
ユーザー体験から見る、リンナイのある暮らし。

Rinnai Innovation Manifesto 2050

新たな価値を生み出せる
脱炭素戦略を

リンナイに聞く ─ カーボンニュートラルへの道筋 ─

  • 聞き手 安達 功 氏 日経BP 総合研究所フェロー
  • リンナイ株式会社 常務執行役員 中島 忠司 開発本部長 兼 技術管理部長
  • リンナイ株式会社 上席執行役員 小川 拓也 経営企画本部長

※所属・役職等はすべて日経ビジネス掲載(2022年10月)当時のものです

総合熱機器メーカーのリンナイは、2050年までにCO2排出をゼロにする戦略を打ち出している。2021年11月にRinnai Innovation Manifesto 2050(リンナイ・イノベーション・マニフェスト2050)を策定。ヒートポンプや水素、メタネーションなどの新技術を積極的に取り入れて、環境負荷の高い化石燃料の使用を2050年までに全面的に撤廃する。その戦略とロードマップ、そして具体的な施策を同社の常務執行役員・中島忠司開発本部長兼技術管理部長、上席執行役員・小川拓也経営企画本部長に聞いた。
(聞き手=安達 功・日経BP 総合研究所フェロー)

2050年までにCO2排出をゼロに

Rinnai Innovation Manifesto 2050は、どのようなプロセスで作られたのでしょうか?

小川会社経営の根幹にカーボンニュートラルを位置づけたのは、2020年の菅前首相によるカーボンニュートラル宣言が大きなきっかけになっています。宣言後わずか2カ月で我々を取り巻くガスを中心とした業界にも動きがあり、都市ガス会社が加盟する日本ガス協会が業界におけるカーボンニュートラルの方向性を打ち出しました。

エネルギーに直接携わる事業会社として、弊社としても何か施策を打ち出し目標設定をしなければならない。世界がカーボンニュートラルの方向に進むなか、家庭用の機器を提供している我々は、家庭におけるエネルギーのインフラがどのように変化していくのか見通しを考えました。

カーボンニュートラル、脱炭素社会が突然訪れるわけではなく段階的に進んでいくと考えた時に、我々の課題となるのは段階をどのように事業戦略に落とし込むかです。国もカーボンニュートラルの実現に向けては、2030年と2050年に目標を置いています。2030年ぐらいまでは、おそらく世の中はまだまだ低炭素でしょう。しかしながら、2050年のカーボンニュートラルに向けて、準備を進めているはずです。

リンナイが考える
2050年に向けた商品ロードマップ

エネルギーの未来を語るリンナイ小川氏

我々もそれに合わせて、まず低炭素の時代においては、今のガスを中心とした機器の省エネを拡大していくことが経営課題になります。その有力な商材が「エコワン」と「エコジョーズ」。この普及を進めつつ、来る2050年までに水素燃料などの技術を突き詰め、準備を進めていく予定です。

現在のエネルギー事情を鑑みると、電力事情は非常にひっ迫しているのが現状です。エネルギーの自給率の低いこの国において、一つのエネルギーに依存するのは危険ではという議論もあります。レジリエンスを総合的に考えた時には、多様なエネルギーを組み合わせながらカーボンニュートラルに向けていく必要があると考えます。

我々が扱っているのは厨房機器や温水機器、暖房機器で、コンロもガスのコンロ、電気のコンロとあるが両方コンロであることには変わりはありません。ですから、エネルギーが電気になっても対応できるように、給湯もエネルギーが電気になっても対応できるように検討を進めています。

5年累計500億円の積極投資

カーボンニュートラルに向けて、5年で累計500億円の投資をされる計画ですが、
具体的にはどのようなことを実現したいと考えているのでしょうか?

中島大きくは二つあり、一つは水素です。水素は慎重に扱う必要があり、まず安心して研究できる広い場所を確保して開発を進めていく必要があります。そのためにはまずイノベーションセンターを新たに建設して、そこで研究を進めていく計画です。またそのセンターで、もう一つ研究するのがヒートポンプです。ガスと電気の両方のエネルギーを使ってお湯を作るハイブリッド給湯器「エコワン」がありますが、この性能強化を図る計画です。

実はヒートポンプや水素へのニーズは、日本よりも海外のほうがはるかに強いのです。水素の開発は元々進めていましたが、エンジンがかかった一つの要因がオーストラリアでした。オーストラリア、キャンベラでは新築においてガス配管を敷くことが禁止になり、アメリカのカリフォルニアやイギリスにおいても部分的に新築においてガス配管の敷設が禁止になるという話も出てきています。

一方日本はそこまでの状況ではありませんので、水素というよりメタネーション(発電所や工場などから回収したCO2を利用して作るメタンを、既存のガスと置き換えて利用すること)に力を入れているのが現状です。 ただ、インフラを整えるにはオーストラリアの場合でも時間がかかるので、直近で注力する技術としてはヒートポンプが有効であろうということになりました。

ヒートポンプの自社開発を、今後進めていかれるのでしょうか?

中島これまでもヒートポンプの自社研究・開発は行なっており、パートナー企業とヒートポンプの共同開発を進めてきました。ヒートポンプを使った給湯器にはさまざまな仕様がありますが、ことエコワンで採用しているハイブリッド給湯技術に関しては我々が一番ノウハウを持っています。ガスとヒートポンプを組み合わせるとどういう性能になり、性能を最大化するためにはどうヒートポンプをコントロールしたらいいかというのが、我々がパートナー企業と一緒に取り組んでいることです。

ECO ONE X5 エネルギー効率の高いヒートポンプで沸かしたお湯をタンクに貯め、補助的に高効率ガス給湯を行うハイブリッド給湯器の「エコワン」。そのエネルギー効率と環境性能の高さから、ハウスメーカーが積極的に住宅用設備として採用しているという

またヒートポンプは使用できる冷媒が各国で異なり、そうなると使えるヒートポンプも変わってくるので、その対応が必要となります。日本では自然冷媒のCO2が主流ですが、世界的にみるとプロパンガスも多く使われます。しかしプロパンガスは、可燃性であるためリスクが高くなりその対応が必要です。

このように各国の施策に合わせて商品化が必要になり、先駆的な役割を果たす欧州を中心にグローバルの状況を見据えながら研究を進める計画です。

カーボンニュートラルに対してメタネーション、水素、電気とどのエネルギーにも対応できるようにとお話をさせていただきましたが、冷媒についてもCO2、プロパン、地球温暖化係数の低いフロン系どれになっても対応できるように技術開発を行う必要があると考えて取り組みを進めています。

水素社会への実現には
ユーザーへの価値提供も重要

水素の話ではトヨタ自動車と提携して水素調理に関する開発をしていますが、
どのような取り組みをされているのでしょうか?

中島トヨタ自動車さんが様々な企業に声掛けをして水素を普及させる取り組みをするなかで、「水素をエネルギーとして使うだけだと、ユーザーが自分事として身近に感じてもらうことが難しい」という課題をお持ちでした。例えば、メタンを使っても水素を使っても電気を使っても、出てくるお湯には差がありません。

ユーザーが見て、体験して水素の魅力がすぐに分かるものが何かないかと探している中で、水素で調理することで新たな魅力が生み出せないかという話が出て、私どもにお話をいただいたのです。

水素燃焼機器水素のみを燃料とする世界初の家庭用給湯器。実証実験を2022年度中に開始予定。2030年以降の実用化を目指す

しかし燃料が水素になっただけではユーザーの方には喜んでいただけません。そこでトヨタ自動車さんと一緒に取り組んでいるのは、水素で燃焼させることにより食材になにか影響を与えることができないかということです。水素を燃焼させると水蒸気が出るので、それが食材に与える影響を科学的に立証できれば、ユーザーに訴求できるのではないかと考え研究している段階です。

実際に水素で肉を焼くと水蒸気が食材を包み込み、しっとりとジューシーに仕上がります。プロの料理人の方々からも試食会で焼いた肉の味について高い評価をいただき、水素社会実現のためのキラーコンテンツの1つとして注目いただいています。

エネルギーを水素に置き換えてCO2を減らすことそのものは、消費者の皆様から賛成はしてもらえると思います。ただ、ではそこにお金を払っていただけるかというと、それはまた別の話。水素が新たな価値を生み出す、ということへの研究は今後もっと必要になるでしょう。

ガス衣類乾燥機「乾太くん」を紹介する小川氏

情緒的な価値への需要が高まっている

新しい価値という話も出ましたがSDGsの先の10年はwell-being(ウェルビーイング)の実現が重要になると言われています。中期経営企画で掲げた生活の質の向上は、次の時代を先取りした指標にも思えますが、どのように考えていますか?

中島well-beingとは、より豊かで楽しみに満ちた生活を実現すること、と我々は考えます。当社の大きな使命は健康、上質、心地よさなど、お客様の「楽しみ」や「ワクワク」を体現する商品の提供、販売の拡大をすることです。リンナイは機器メーカーとして2020年に100周年を迎えました。その時代の変遷の中で市場も成熟し、人々の生活のスタイルもニーズも変わりつつあると感じています。

それが、機能的な価値よりも情緒的な価値を求める方向への進化です。例えば給湯器であれば、安定的にお湯が出ればいいというだけでなくお風呂に入る、あるいはシャワーを浴びるといった体験を通してプラスの情緒的な価値が何かできないかということに、商品企画や商品開発の方向性が変わりつつあります。調理で言うと、ただ火がつけばいいというものから、よりおいしく簡単に調理ができて、それが時短につながるようなものが求められるのではないでしょうか。

以前は家で料理をするのは主婦の仕事という風潮があったかもしれませんが、今は共働き世代も増えています。性別や年齢、経験に関係なく誰もが簡単に調理をできるような道具に進化をさせていくといったようなことが生活の質の向上だと考えています。

これからの商品開発について語る中島氏

具体的な商品としては、お風呂のお湯に極小の空気の泡を含ませる「マイクロバブルバスユニット」があります。

この商品を開発するにあたり重要視したのは、空気の泡によりお湯が白濁して見える「マイクロバブル」によって、普段の入浴を驚きの体験に変えていくことです。

白濁する様子は非常に幻想的であり、視覚的な効果としてリラックス効果やお風呂の楽しさを実感していただけます。

更に、微細な泡による温浴効果や洗浄効果も得られる特徴があります。商品化した後も、入浴による更なる効果効能を消費者に伝えるために、うるおい効果や入眠環境サポートなど、大学の先生と一緒になって検証を続けています。新たな価値を伝えていくことで、結果的に多くの消費者に受け入れていただけました。

白濁の湯に包まれるマイクロバブルバスユニット給湯器
高い洗浄効果が期待できるウルトラファインバブル給湯器

「マイクロバブルバスユニット」はお風呂に特化した商品ですが、泡の効果をより多くの市場へ広めていくためにマイクロバブルより更に微細な泡である「ウルトラファインバブル」に注目しました。

目に見えないほど小さい泡ですが、高い洗浄効果が期待でき、マイクロバブルと同様に広い分野で研究されている技術です。視覚的な効果はありませんが、水回りを中心とした効果を明確に伝えることに注力しました。

発生器を給湯器内部に搭載することで家中どこでもウルトラファインバブルのお湯が使える給湯器として商品化しました。

あらゆる場面の「洗浄」が変わる商品として2022年に発売したところ、その利便性を認めていただき、こちらも多くの取り扱い販売事業者から支持を受けています。

キッチン、洗濯機、洗面所、浴室など、家中の水まわりをきれいにするウルトラファインバブル給湯器

「楽しく、そしてラクに」という体験価値は非常に重要ですが、一方でなかなかカタログやスペックでは表しにくい部分もあります。

衣類乾燥機の「乾太くん」も、厨房関係で力を入れているオート調理機能も、実際に体験いただいてこそ価値を理解していただけます。

ですから、製品を体感いただける、「Hot.Lab」という施設も全国に設けるなど、消費者やパートナー企業の皆様との接点をいかに作るかということに改めて力を注ぎ、「直接伝える」ための努力を行なっています。

次世代のハイブリッド給湯器「ECO ONE X5」を紹介する中島氏